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ゴング


   (寫眞をクリックすると拡大します。)

谷あひの街に下流側から入るには、街の一番端に建つこの家の前を必ず通り過ぎねばならない。
この家から先は道が極端に狭くなるため、街の中に車で入ることはできない。

街に向かって歩く道の奥にこの家が見えてくる度に、警戒色を誇示するスズメ蜂の姿を想起する。
外からの訪問者に緊張を強いる役目を担った、異形の城門。
それは、街の住人たちの緊張感が裏返しになって現れたものなのかもしれない。

彼らの警戒行動が、段々と露わになってきた。

当初は、歓迎できない撮影者を、住人たちは無視しているように見えた。
偶然目が合っても、すぐに住人たちの方が家の中に身を隠していた。

しかし最近は、窓から、勝手口から顔を出し、じっと視線を浴びせてくる。
いつの間にか背後に忍び寄ってくることもある。

こちらにその気が無くても、彼らはゴングを鳴らしたらしい。
対決の日々が始まったようだが、そういうことなら、こちらだって負けたくはない。

BGM ・・・ 山高帽男 (島邦明)
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重力の館


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重力の館に開花した、エンジェルス・トランペット。
日は陰り、雨の匂いが近い。

BGM ・・・ 歓楽の街 (島邦明)

walled city


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谷あひの街、急傾斜地。

九龍城砦の違法高層建築群がテーブルマウンテンならば、その南隣に広がっていた低層バラック群は山麓の樹海。
高低差のある迷宮地帯は、時間差をおいて全面撤去され、九龍寨城公園及び賈炳達道公園へと姿を変えた。

BGM ・・・ 香港最高風水会議 (島邦明)

霜降り屋根


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霜降り屋根を軽く炙り、香草を添える。
さあ、どうぞ召し上がれ。

BGM ・・・ アイテムバトル (島邦明)

香港的


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二十歳の頃、地図を持たずに足の向くまま歩き回っているうちに、板橋区内の住宅密集地に入り込んだ。
車が入れない細い路地と急峻な階段が入り組み、北向きに傾斜するじめっとした谷底に狭小な家屋がみっしり詰まったその街は、他所では見たこともない凄惨な様相を呈していた。

見た目に古い街だが、戦後の東京や昭和の日本のヒューマンな風情などはどこにもない。
何回かここを訪れるうちに、日本の首都とは全くかけ離れた時間を刻む租界のような谷底の街を、「東京の香港」と勝手に命名した。
殺伐とした空気が流れる返還前香港の裏町の雰囲気を日本に居ながらにして体験できる、貴重な空間だった。

東洋の魔窟と呼ばれた九龍城砦を香港政庁が取り壊してから、10年余り後のこと。
劣悪な居住環境の整備、緊急車両が進入可能な道路の敷設といった社会政策のもとで、薄暗い谷は丸ごとキレイに整地され、戦後60年分の垢を溜め込んだ「東京の香港」は一掃された。
その後、消えた街の残像を求めてネットをうろついていると古い写真が幾つか見つかったが、それとともに、この場所が東京の中の異界として一部の人には有名な存在だったことを知った。

「東京の香港」に、見るべきものは何もなかった。
他の街に住む人々の体質に合わない空気が街全体を包み込み、訪れる者を撥ねつけていた。
それでも、世の数寄者たちの心は異界に惹き付けられ、身体は異界に引き寄せられた。
やがて異界は、そんな来訪者たちに全く頓着すること無く、地上から消えて行った。

今また新たに、谷あひの街に引き寄せられんとしている我が身体を意識する。
であれば今度は、街が地上にあるうちに、しっかりと足を運んでおくことだ。

谷あひの街に行っても、見るべきものは特にない。
美しいものも、感動的なものも、人生にとって意義深いものも、そして、ほのぼのとしたレトロなものすらもない。
ただ単に、近付き難い空気に逆らって異界に近付き、その空気の正体を思い描いてみるだけのことである。

BGM ・・・ 香港的大廈 (島邦明)

発色事情


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住人が去り、住居は残る。
そのまま朽ちて行くはずだった廃屋で、煙突や網戸がサイケに発色し、外壁はぼんやり発光する。
発光後に羽化したモスラの繭の旧例に照らし、要経過観察の所見を下す。

BGM ・・・ エンディング・テーマ (島邦明)

配色事情


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凝とカメラを構えていると、不意に暗い玄関から家人が現れたらどう対応すればよいか、全くアイデアがないことに気が付いた。
意図不明の配色を選択した住人の気質は予測がつかず、何を問われても上手く答えられる気がしない。
脇を締めた体勢が、一層張り詰める。

谷あひの街に足を踏み入れる度、禁忌に触れる感覚に身を包まれ、長居はならぬことを思い知る。

シャッターを切るのと同時に、軒下から一匹の蛾が離れた。
その飛跡を追って視線をファインダーから外し、屋根の向こうに蛾が消えるのを確かめると、肩をストンと下げて体の強張りを振り落とし、早々に次の場所へと移動した。

BGM ・・・ 妄人路 (島邦明)

彩色事情


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谷あひの街には、彩色家屋が点在する。

各室の電力量計が並ぶ、木造アパートの壁面。
メーターや配線にも、壁と同じ塗料で化粧を施す。
検針窓に塗料が付着せぬように仕上げた丁寧な刷毛捌きに、意表を突かれた。

BGM ・・・ 海鮮中心 (島邦明)

谷あひの街


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谷あひの街に歩いて入るのは簡単だ。
バス通りから枝分かれした谷を遡れば、すぐに着く。

しかし、車で入るのは大変だ。
大回りして丘に上り、そこから谷あひの街に下りて行くしかない。
ところが丘を下る道は何本もあり、どれが正しい道なのか、直ぐには分からない。

やがて、その中に一本だけ「この先車通れません」という看板が立つ道があることに気付く。
つまり、その道を下ると、谷あひの街に行き着くことができるわけだ。

BGM ・・・ 九龍フロント (島邦明)
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